離婚慰謝料が認められるケース(不貞・DV)

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離婚を考えるとき、「これだけつらい思いをしたのだから、慰謝料をもらえるはずだ」というお気持ちになるのは、ごく自然なことです。

ただ、法律上の慰謝料は、そのお気持ちとは少し違う仕組みで動いています。ここを最初に知っておくかどうかで、その後の進め方が大きく変わります。

このページでは、離婚慰謝料が認められやすいのはどんな場面か、何が判断の分かれ目になるのかを、できるだけ正直に整理します。期待をあおるつもりはありません。ご自身の状況を落ち着いて見極めるための材料としてお読みください。

目次

結論:出発点は「違法な行為」と「それを裏づける証拠」

先に結論をお伝えします。

離婚慰謝料は、つらい思いをしたから当然にもらえるものではありません。法的に請求できるのは、相手に違法といえる行為があった場合に限られます。そして、その行為があったことを裏づける証拠が手元にあるかどうかが、実際に認められるかどうかを大きく左右します。

「違法な行為」と「証拠」。この2つが揃っているかどうかが出発点です。

ここでお伝えしたいのは、諦めてくださいということではありません。ご自身の状況がどこに位置しているのかを早い段階で把握しておけば、慰謝料に労力を割くべきか、それとも財産分与や養育費など他の論点に力を注ぐべきかを、冷静に判断できます。限られた時間と気力を、どこに使うかという話です。

慰謝料とは何か

離婚慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償です。相手の違法な行為によって受けた精神的な苦痛に対して、金銭で賠償を求めるという考え方に立ちます。

ここから2つのことが導かれます。

ひとつは、相手に法的な責任があるといえる行為が必要だということ。夫婦関係が壊れた原因が、どちらか一方の違法な行為にあると言える必要があります。

もうひとつは、その行為があったことを示す必要があるということ。争いになった場合、原則として請求する側が事実を明らかにしていくことになります。

したがって、性格の不一致、価値観の相違、親族との折り合いが悪い、といった理由での離婚では、慰謝料は原則として認められにくくなります。どちらか一方に責任があるとは言いにくいためです。夫婦関係が壊れた経緯が双方にある場合も同様です。

これは「あなたのつらさが軽い」という意味ではまったくありません。法律上の慰謝料という制度が、そういう作りになっているというだけのことです。

なお、話し合いのなかで、法的な請求の可否とは別に「解決金」という形で金銭を定めることは可能です。当事者が納得して合意するのであれば、それは有効な取り決めになります。

認められやすい類型

実務上、慰謝料が認められやすいとされるのは、次のような類型です。

不貞行為

配偶者以外の相手と肉体関係を持つことです。夫婦の貞操義務に反する行為として、違法性が認められやすい類型の代表格といえます。

ポイントになるのは、関係の内容と継続性です。単に親しく連絡を取り合っていた、二人で食事をした、という事情だけでは、不貞と評価されないことが一般的です。一方で、関係が長期にわたっていた、相手方との間に子が生まれた、といった事情があれば、金額の判断にも影響します。

また、すでに夫婦関係が破綻した後の交際については、慰謝料の対象とならない場合があります。「いつから関係があったのか」が争点になりやすいのは、このためです。

DV・暴力

身体への暴力は、それ自体が違法な行為です。慰謝料が認められやすい類型といえます。

暴力の程度、回数、継続した期間、お子さんの面前で行われたかどうかといった事情が、判断に影響します。身体への暴力だけでなく、生命や身体に危害を加えると告げて脅す行為なども、問題とされます。

現に危険がある場合は、慰謝料の検討より先に、安全の確保を優先してください。 配偶者暴力相談支援センター、市区町村の相談窓口、警察には、緊急の避難や保護命令についての相談ができます。住民票の閲覧制限(支援措置)という仕組みもあります。慰謝料の話は、安全が確保できてからでも進められます。

悪意の遺棄

正当な理由なく、夫婦としての同居・協力・扶助の義務を果たさないことです。

たとえば、理由もなく家を出て生活費を一切渡さない、相手を家から締め出す、といった行為が問題とされます。単身赴任や、話し合いのうえでの別居は、当然ながらこれにあたりません。「正当な理由がないこと」がポイントです。

生活費を渡さない状態が続いている場合は、慰謝料とは別に、婚姻費用の請求という手段もあります。こちらは違法性を問わずに請求できる制度ですので、あわせて検討する価値があります。

証拠が要になります

どの類型であっても、実際に請求が通るかどうかは、証拠の有無にかかっています。

不貞行為の場合:一度きりの出来事を示す資料より、継続的な関係があったことを示す記録のほうが評価されやすい傾向があります。やり取りの履歴、宿泊や旅行を示す記録、相手が事実を認めた発言の記録などが、素材になりえます。

DV・暴力の場合:受診した際の診断書、けがの状態が分かる写真、警察や相談窓口に相談した際の記録、日付とともに書き留めた日記などが挙げられます。相談したという記録そのものが残るため、公的な窓口に相談しておくことには、安全面に加えてこうした意味もあります。

悪意の遺棄の場合:家計の入出金が分かる記録、別居に至った経緯が分かるやり取りなどが素材になります。

ここで、ひとつ大切なことをお伝えします。証拠を集めるために、違法な方法をとらないでください。 他人の通信を無断で傍受する、住居に無断で立ち入る、位置情報を無断で取得するといった行為は、それ自体が別の責任を生む可能性があります。慰謝料を請求する立場だったはずが、逆に責任を問われる側になってしまうことがあります。

すでに手元にある記録を整理する。公的な窓口に相談して記録を残す。この2つが、まず取り組める現実的な方法です。どこまでが適切な方法かの判断に迷うときは、その段階で専門家に相談してください。

立証が難しい類型について、正直にお伝えします

ここは、誠実にお伝えしなければならない部分です。

モラルハラスメント、精神的な支配、繰り返される侮辱や無視。こうした行為で深く傷ついてこられた方は、実際にたくさんいらっしゃいます。日々の生活のなかで少しずつ削られていく苦しさは、目に見える傷より重いこともあります。そのつらさを、法律が軽く見ているわけではありません。

ただ、法的な請求として組み立てるとなると、証拠の壁がかなり高い類型であることも事実です。理由は主に2つあります。

ひとつは、行為が記録に残りにくいこと。日常のやり取りのなかで積み重なる言動は、その場に記録が残らないことがほとんどです。

もうひとつは、違法といえる程度に至っていたかの判断が難しいこと。夫婦の間の言い争いや冷淡な態度は、程度によっては「夫婦関係のなかで起こりうること」と評価され、不法行為とまでは認められないことがあります。

そのため、「モラハラなので慰謝料を請求できます」と安易に申し上げることは、当社ではいたしません。期待をふくらませたまま進めた結果、時間と気力を消耗し、最後に落胆される。そういう経験を、していただきたくないからです。

では、どうすればよいのか。現実的には、次のような整理になります。

  • 記録が残っているかを確認する。日記、メッセージ、第三者(家族、友人、職場、医療機関、相談窓口)への相談履歴、体調不良で受診した記録など。これらが残っていれば、判断の材料になりえます。
  • 慰謝料に固執せず、財産分与・養育費・婚姻費用といった、証拠の有無に左右されにくい論点をきちんと詰める。生活の再建という観点では、こちらのほうが効果が大きい場合が少なくありません。
  • 話し合いのなかで、解決金という形で調整する余地がないかを探る。相手が離婚を急いでいる場合など、条件次第で合意に至ることもあります。

つらさを否定する意図はまったくありません。むしろ、そのつらさを抱えたまま勝ち目の薄い争いに時間を注ぐより、確実に手元に残るものを固めていただきたいというのが、実務からの率直な提案です。

金額はどう決まるのか

よくいただくご質問ですが、はっきりお伝えします。一律の相場はありません。

慰謝料の額は、次のような事情を総合して、個別に判断されます。

  • 婚姻期間の長さ
  • 行為の内容と、それが続いた期間・回数
  • 夫婦関係が壊れた原因に、どの程度その行為が影響したか
  • お子さんの有無や年齢
  • 双方の収入や資産の状況
  • 離婚に至ったかどうか、その後の生活への影響
  • 相手の対応(事実を認めているか、反省の姿勢があるかなど)

インターネット上には金額の一覧表が数多く出回っていますが、それらは典型的なケースを整理したものにすぎず、ご自身の状況にそのまま当てはまるとは限りません。同じ「不貞」でも、事情によって結論は大きく変わります。

金額の見通しを立てたい場合は、ご自身の事情を具体的に整理したうえで、専門家に相談されることをおすすめします。数字だけを先に決めて交渉に入ると、根拠を説明できずに行き詰まりやすくなります。


慰謝料を請求できるかどうかにかかわらず、離婚では決めるべきことがたくさんあります。『離婚の問診票』では、弁護士が実務で確認している論点を、LINEの質問に答えていくだけで漏れなく整理できます(無料)。 ご自身のケースで何を決める必要があるのか、10分ほどで確認できます。


当社の作成支援データから見える傾向

当社が離婚協議書の作成を支援した336件(うちお子さんがいるケース325件)を集計したところ、約50.8%が公正証書等をなお必要とする内容でした。その理由の内訳は、年金分割が23.7%、財産分与が21.5%、慰謝料が15.7%です(当社調査)。

つまり、当社にご相談いただいた方のうち、慰謝料の取り決めを含む内容だったのは一定の割合にとどまります。裏を返せば、多くの離婚は慰謝料を伴わずに成立しているということでもあります。

ただし、この数値の読み方には注意が必要です。これは当社のサービスをご利用になった方の行動から集計したデータであって、日本の離婚全体の実態を調べた統計ではありません。ご相談の入口や、お子さんがいるご家庭が中心であるという偏りがあります。

それでも、実務の感覚としてお伝えできることがあります。慰謝料は、離婚の話し合いのなかでは「あれば決める」項目であり、必ず登場するものではないということです。「慰謝料をもらえないと損だ」と考える必要はありません。

なお、慰謝料の取り決めがある場合、その支払いを確実にするために公正証書を検討する価値は高くなります。詳しくは「離婚公正証書とは|費用・必要性・作り方」をご覧ください。

請求の期限と、不貞相手への請求

請求には期限があります

慰謝料の請求権には期限があります。一定の期間が過ぎると、請求ができなくなります。

期間の数え方は、いつから起算するのか、どの類型かによって変わり、判断が分かれる場面もあります。ここで具体的な年数を挙げることはしませんが、「気づいたときには期限が過ぎていた」という事態は現実に起こります

不貞を知ってから何年も迷い続け、離婚の話が固まった頃には請求が難しくなっていた。そういうご相談は少なくありません。請求を検討しているなら、早めに動くこと。これが実務からの最も重要なアドバイスです。まずは請求の意思を書面など記録に残る形で示しておくだけでも、意味があります。

不貞相手への請求

不貞のケースでは、配偶者だけでなく、その相手方に対しても請求できる場合があります。二人が共同して行った行為として扱われるためです。

ここで押さえておきたいのが、二重に受け取ることはできないという考え方です。配偶者と不貞相手は、同じ損害について共同で責任を負う関係にあります。一方から支払いを受けた分は、もう一方への請求から差し引かれるのが原則です。「二人からそれぞれ満額もらえる」わけではありません。

また、不貞相手に請求すると、そこから配偶者に対して求償(負担分の請求)がなされ、結果として家計を通じて戻っていく、という展開もありえます。お子さんがいるご家庭では、この点も踏まえて判断する必要があります。

離婚後も相手と関わりが続く場合、請求によって関係が悪化し、養育費や面会交流の取り決めに影響することもあります。何を優先するのかを決めたうえで進めてください。

財産分与との関係

慰謝料と財産分与は、性質の異なるものです。混同しないよう整理しておきましょう。

財産分与は、婚姻期間中に夫婦で築いた財産を分ける手続です。どちらに責任があるかとは関係なく行われます。

慰謝料は、違法な行為による精神的苦痛への賠償です。責任の所在が前提になります。

実務では、この2つをまとめて「解決金」として定めることもあります。相手が「慰謝料」という言葉に強く抵抗を示す場合、名目を変えることで合意に至りやすくなる、という事情があるためです。

ただし、書面のうえでは区別して整理しておくほうが安全です。名目によって税務上の扱いが変わりうること、後から「あれは何のお金だったのか」という争いになりうること。この2つが理由です。まとめる場合でも、内訳や趣旨を書き添えておくとよいでしょう。

財産分与そのものについては「財産分与の対象と分け方」で詳しく解説しています。

取り決めを書面にするときの注意

慰謝料の支払いが決まったら、その内容を書面に残します。ここで押さえておきたい点を挙げます。

総額と支払方法を明確にする:一括なのか分割なのか、分割なら回数と各回の金額、支払期日、振込先までを特定して書きます。「〇〇円を支払う」だけでは、いつどのように払うのかが決まっていません。

分割払いの場合は期限の利益喪失条項を入れる:分割払いは、途中で滞るリスクがあります。「支払いを〇回怠ったときは、残額を一括で支払う」という条項を入れておくと、滞ったときに残り全額の請求へ進めます。逆に、この条項がないと、滞納した回の分ずつしか請求できません。

清算条項との関係を確認する:協議書の末尾に置かれる清算条項(これ以外に債権債務がないことを確認する条項)を入れると、書き漏らした請求は原則としてできなくなります。慰謝料について後日請求する可能性を残したい場合は、その旨を明示する必要があります。

公正証書にするかを検討する:慰謝料のような金銭の支払いは、公正証書に強制執行認諾文言を入れておくことで、支払いが止まったときに裁判を経ずに差押えの手続へ進めます。なお、2026年4月1日から始まる養育費の先取特権は、養育費についての仕組みであり、慰謝料には及びません。慰謝料の取り決めがある場合は、公正証書を検討する意味が大きくなります。

離婚全体で決めるべき項目は「離婚の進め方 完全ガイド|別居前にやること」で整理しています。

専門家に相談したほうがよい場面

次のような場合は、早い段階で専門家に相談されることをおすすめします。

  • 不貞やDVの事実について、相手が全面的に争っている
  • 手元の記録が証拠として使えるものか判断がつかない
  • 不貞相手にも請求すべきか迷っている
  • 相手から慰謝料を請求されている
  • 期限が近いのではないかと不安がある
  • 慰謝料と財産分与をまとめて調整することになりそうだ

慰謝料は、感情が最も動きやすい論点です。だからこそ、第三者の視点を入れて、見通しを立ててから動くことをおすすめします。

よくある質問

Q. 性格の不一致でも慰謝料は請求できますか?
A. 原則として難しいところです。慰謝料は不法行為に基づく損害賠償ですので、どちらか一方に法的な責任があるといえる行為が必要になります。性格の不一致のように、どちらが悪いとは言いにくい理由では認められにくいのが実情です。ただし、話し合いのなかで解決金として金銭を定めること自体は可能です。

Q. モラルハラスメントで慰謝料は認められますか?
A. つらさが軽いという意味ではありませんが、法的な請求としては証拠の壁が高い類型です。言動が記録に残っていないことが多く、違法といえる程度に至っていたことを示すのが難しくなります。日々の記録や第三者への相談履歴が残っていれば、判断の材料となりえます。

Q. 慰謝料の相場はいくらですか?
A. 一律の相場はありません。婚姻期間、行為の内容と期間、お子さんの有無、双方の事情などを総合して個別に判断されます。インターネット上で見かける金額の一覧は目安にすぎず、ご自身のケースに当てはまるとは限りません。

Q. 証拠がなければ諦めるしかないのでしょうか?
A. 必ずしもそうとは限りません。話し合いのなかで相手が事実を認め、解決金として支払いに合意することもあります。ただし、違法な方法で証拠を集めることは別の問題を生みますので避けてください。まずは、すでに手元にある記録を整理するところから始めてください。

Q. 慰謝料と財産分与は別のものですか?
A. 別のものです。財産分与は婚姻期間中に築いた財産を分ける手続、慰謝料は違法な行為に対する損害賠償です。まとめて解決金として定めることもありますが、後の争いや税務上の扱いを考えると、書面では区別して整理しておくほうが安全です。

まとめ:状況を見極めて、力を注ぐ場所を決める

離婚慰謝料は、違法な行為があったことと、それを裏づける証拠が揃っているかどうかが出発点です。不貞行為、DV・暴力、悪意の遺棄が、認められやすい類型として挙げられます。

一方で、立証が難しい類型もあります。そのつらさが軽いわけではありません。ただ、法的な請求として組み立てられるかどうかは別の話であり、そこを早めに見極めることが、あなたの時間と気力を守ることにつながります。

慰謝料が難しい場合でも、財産分与、養育費、婚姻費用、年金分割といった論点は残っています。生活の再建という観点では、そちらのほうが効果が大きいことも少なくありません。

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※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。記載の制度(先取特権・法定養育費・共同親権など)の要件や、ご自身のケースへの当てはめは、内容により専門家へのご確認をおすすめします。「離婚の問診票」は書類作成を補助するツールであり、作成された書面の効力を保証するものではありません。本記事は弁護士 佐々木裕介が監修しています。


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